ひきこもりの状態にある家族を前にすると、
「このままで大丈夫なのだろうか」
「少しでも早く外に出てほしい」
「何か言わなければ、ずっと変わらないのではないか」
と、不安や焦りを感じることがあります。
そのため、本人を励まそうとして、つい強い言葉をかけてしまうこともあるでしょう。
しかし、ひきこもっている本人も、多くの場合、「このままではいけない」と考えています。
学校や仕事に行けない自分を責め、家族に迷惑をかけていると感じながら、それでも動けない状態になっていることがあります。
そのようなときに必要なのは、さらに頑張らせる言葉ではありません。
まずは、本人が安心できる言葉です。
「いつまで、こんな生活を続けるの?」
家族にとって、先が見えない状態はとても不安です。
しかし、この言葉をかけられても、本人にも答えはわかりません。
本人自身も、
「いつまで続くのだろう」
「このままではいけない」
と考えていることがあります。
答えられないことを繰り返し聞かれると、焦りや自責の気持ちが強くなり、さらに家族との会話を避けるようになることがあります。
安心につながる言葉
「今すぐ答えを出さなくても大丈夫だよ」
「困っていることがあったら、いつでも話してね」
将来の答えを求めるよりも、今の苦しさを話せる余地を残すことが大切です。
「甘えているだけでしょう」
ひきこもりは、単なる甘えや怠けとは限りません。
人と会うことへの強い不安、過去の失敗や傷つき体験、自信の低下、うつ状態などが背景にあることがあります。
外から見ると、部屋で休んでいるだけに見えても、本人の心の中では、
「外に出るのが怖い」
「また失敗するのではないか」
「自分には何もできない」
という苦しさが続いているかもしれません。
「甘えている」と言われると、本人は自分の苦しさを理解してもらえないと感じます。
安心につながる言葉
「今は、動くことがとてもつらいんだね」
「何が一番つらいのか、話せるときに聞かせてね」
本人の行動を評価する前に、その背景にある苦しさに目を向けます。
「みんな嫌でも頑張っている」
学校や仕事では、誰でもつらいことがあります。
そのため、家族としては「少し我慢すれば乗り越えられる」と考えるかもしれません。
しかし、心のエネルギーが低下している人にとって、ほかの人と同じように頑張ることが難しい場合があります。
同級生、友人、兄弟姉妹などと比べられると、
「自分だけができない」
「自分には価値がない」
という思いを強めてしまいます。
安心につながる言葉
「人と比べなくてもいいんだよ」
「あなたのペースで考えていこう」
回復までに必要な時間や過程は、人によって異なります。
ほかの人ではなく、昨日までの本人と比べ、小さな変化を見守ることが大切です。
「働かないなら、家から出ていって」
なかなか動こうとしない本人を見て、強い危機感を持たせたほうがよいと考えることがあります。
しかし、追い詰める言葉によって、必ずしも行動できるようになるわけではありません。
むしろ、
「自分には居場所がない」
「家族にも見放された」
と感じ、絶望感を深めることがあります。
うつ状態が重なっている場合には、特に注意が必要です。
安心につながる言葉
「今すぐ働くことより、まず少し元気を取り戻すことを考えよう」
「生活のことで心配なことがあれば、一緒に考えよう」
学校や仕事に戻る前に、安心して眠れること、食事を取れること、家族と少し話せることなどが必要な場合があります。
「そんなことを気にする必要はない」
本人が人間関係の悩みや失敗した経験について話したとき、家族は安心させようとして、
「気にしすぎだよ」
「そんなことは、みんなすぐに忘れるよ」
と言うことがあります。
しかし、本人にとっては、とても大きな問題かもしれません。
気にしなくてよいと言われても、簡単に気持ちを切り替えることはできません。
かえって、
「自分の感じ方がおかしいのだろうか」
「やはり話してもわかってもらえない」
と感じることがあります。
安心につながる言葉
「それがずっと心に残っているんだね」
「そんなふうに感じるほど、つらかったんだね」
すぐに解決策を示すよりも、まずは本人の感じ方を受け止めることが大切です。
「あなたのためを思って言っている」
家族が本人の将来を心配していることは、本当だと思います。
しかし、「あなたのため」という言葉を使うと、本人は反論しにくくなります。
本人が苦しいと伝えても、
「心配して言っているのに」
と返されれば、気持ちを話すことを諦めてしまうかもしれません。
善意から出た言葉でも、本人を追い詰めることがあります。
安心につながる言葉
「心配で、つい強く言ってしまった。ごめんね」
「どうしてほしいか、話せる範囲で教えてね」
家族が自分の言い方を振り返ることで、本人も少しずつ話しやすくなります。
「いつになったら元のあなたに戻るの?」
以前は明るかった、よく出かけていた、普通に働いていた。
そのような過去の本人を知っているほど、家族は「早く元に戻ってほしい」と願います。
しかし、本人自身も以前の自分と今の自分を比べ、苦しんでいることがあります。
「昔はできていた」と言われることで、現在の自分を否定されたように感じるかもしれません。
安心につながる言葉
「今のあなたの気持ちを大切にしたいと思っているよ」
「急がなくても、一緒に考えていこう」
目標は必ずしも、以前とまったく同じ状態に戻ることではありません。
今の本人に合った生活や人との関わり方を、少しずつ見つけていくことも回復の一つです。
何を言えばよいかわからないとき
ひきこもっている本人に対して、家族は「正しいことを言わなければ」と考えがちです。
しかし、特別な言葉を用意する必要はありません。
「おはよう」
「ごはんを置いておくね」
「必要なものがあったら教えてね」
「返事は今すぐしなくても大丈夫だよ」
このような何気ない言葉でも、十分に意味があります。
返事がなくても、本人が聞いていないとは限りません。
何度も質問したり、無理に話を続けたりせず、短く伝えて見守ることも大切です。
本人の話を聞くときに大切なこと
本人が話し始めたとき、家族はすぐに原因を調べたり、解決策を示したりしたくなります。
しかし、本人が求めているのは、助言ではなく、まず話を聞いてもらうことかもしれません。
たとえば、
「人に会うのが怖い」
と話したときに、
「そんなことでは将来困るよ」
「いつから怖くなったの?」
「病院に行ったほうがいい」
と続けると、本人は話せなくなることがあります。
まずは、
「人に会うことを考えると、怖くなるんだね」
「話してくれてありがとう」
と受け止めます。
本人の考えにすべて賛成する必要はありません。
相手がそのように感じていることを、否定せずに聞くことが大切です。
言いすぎてしまったときは、やり直せます
家族も、不安や疲れを抱えています。
いつも穏やかに接することは簡単ではありません。
つい強い言葉を言ってしまうこともあるでしょう。
そのときは、
「さっきは強く言いすぎてしまったね」
「心配で焦っていた。ごめんね」
と伝えることができます。
一度言いすぎたからといって、親子や家族の関係がすべて壊れるわけではありません。
気づいたときに謝り、接し方を少しずつ変えていくことが大切です。
家族の言葉は、安心できる居場所になります
ひきこもりの状態にある人に必要なのは、すぐに学校や仕事へ戻るように説得されることではないかもしれません。
まずは、
「ここにいても大丈夫」
「話せない日があっても大丈夫」
「自分のことをわかろうとしてくれる人がいる」
と感じられることが大切です。
安心できる場所があることで、少しずつ心のエネルギーを取り戻し、自分から動いてみようと思える日が来ることもあります。
本人を変えようとする言葉よりも、本人の今の苦しさを理解しようとする言葉を選ぶこと。
その積み重ねが、回復への小さな一歩につながります。

