ひきこもりとうつの関係を考える
「学校に行かなくなり、ほとんど部屋から出てこない」
「仕事を辞めてから、人と会うことを避けるようになった」
「何年も家にいるけれど、本人が何を考えているのかわからない」
ひきこもりの状態にある人を見て、周囲は「なぜ外に出ないのだろう」「働く気がないのだろうか」と感じることがあります。
しかし、ひきこもりは、単なる怠けや甘えではありません。
その背景には、人との関わりへの不安、過去の傷つき体験、自信の低下、強いストレス、うつ状態など、外からは見えにくい「こころの不調」が隠れていることがあります。
ひきこもりは病名ではなく「状態」を表す言葉
厚生労働省では、ひきこもりを、就学や就労、人との交流などの社会参加を避け、原則として6カ月以上、家庭を中心に生活している状態としています。
ひきこもりというと、まったく外出せず、自分の部屋から出てこない状態を想像するかもしれません。
しかし実際には、人との関わりを避けながら、近所への買い物や散歩には出かける人もいます。
つまり、ひきこもりは病名ではなく、その人が現在置かれている「状態」を表す言葉です。
ひきこもりに至った経緯や抱えている悩みは、一人ひとり異なります。
内閣府の調査では、15歳から64歳のおよそ50人に1人が、ひきこもり状態に該当するとされています。
ひきこもりは、決して一部の特別な人だけに起こる問題ではありません。
ひきこもりの背景は年代によって異なります
ひきこもりというと、中学生や高校生など、若い人の問題だと思われることがあります。
しかし実際には、高校生や大学生だけでなく、就職後の20代、30代、40代、50代にも見られます。
年代やこれまでの人生経験によって、ひきこもりにつながる出来事や、本人が抱える苦しさも異なります。
高校生・大学生の場合
高校生や大学生では、不登校の長期化、いじめ、友人関係の悩み、進学への不安、学業についていけない苦しさなどが、ひきこもりのきっかけになることがあります。
周囲からは、単に「学校へ行かない」と見えていても、本人の中では、
「教室に入るのが怖い」
「人からどう見られているのか不安」
「失敗するくらいなら、何もしないほうがいい」
といった、強い緊張や自己否定が起きていることがあります。
学校へ行きたくないのではなく、本当は「行きたいけれど行けない」という状態かもしれません。
何度も学校へ行こうとして、それでも動けなかった経験を繰り返すうちに、自分を責め、さらに人との関わりを避けるようになることもあります。
20代・30代の場合
20代や30代では、就職活動の失敗、仕事での挫折、職場の人間関係、過重労働、退職などがきっかけになることがあります。
学校を卒業して社会に出る時期は、環境が大きく変化します。
仕事についていけない、人間関係がうまくいかない、期待された成果を出せないといった経験から、自信を失ってしまう人もいます。
さらに、周囲の同年代が働いたり、結婚したりしている姿を見ることで、
「自分だけが取り残されている」
「今さらやり直せない」
「人に会うのが恥ずかしい」
と感じることがあります。
このような気持ちが強くなるほど、昔の友人にも会えなくなり、外に出ること自体が大きな負担になってしまいます。
40代・50代の場合
40代や50代では、失業、病気、離婚、家族の介護、長年にわたる職場のストレスなどがきっかけとなり、ひきこもり状態になる場合があります。
一度社会で働いた経験がある人ほど、以前の自分と現在の自分を比べて、強い喪失感を抱えることがあります。
「以前は普通に働けていたのに」
「家族を支えなければならないのに」
「この年齢で、今さら何ができるのだろう」
このような思いから、自分を責めたり、人に知られることを恥ずかしく感じたりして、さらに社会との接点を失うことがあります。
若い頃のひきこもりとは異なり、失った仕事や立場、年齢への焦り、将来の生活への不安などが重なることもあります。
そのため、年齢だけで判断せず、その人がこれまで歩んできた人生や、現在置かれている状況を理解することが大切です。
ひきこもりの背景にある「こころの不調」
ひきこもりの背景には、さまざまな心の苦しさが隠れていることがあります。
たとえば、次のようなものです。
- 人と接することへの強い不安
- 自分に対する自信の低下
- 過去の失敗や傷つき体験
- 完璧にできなければ意味がないという考え方
- 周囲から責められているように感じる苦しさ
- 睡眠や生活リズムの乱れ
- 何をする気力も起きない状態
ひきこもっている本人も、多くの場合、「このままではいけない」と考えています。
外に出なければならない、学校や仕事に戻らなければならない、家族に迷惑をかけてはいけないと、本人なりに悩んでいることがあります。
しかし、どうすれば現在の状態から抜け出せるのかわかりません。
動かなければいけないと思うほど焦りが強くなり、失敗することへの恐怖や不安が大きくなって、さらに動けなくなることがあります。
外からは何もしていないように見えても、本人の心の中では、不安や自責、焦りが一日中続いていることもあります。
そのため、外から見える行動だけを見て、
「何もしていない」
「努力が足りない」
「楽をしている」
と判断すると、本人の苦しさをさらに深めてしまうことがあります。
ひきこもりとうつの関係
ひきこもり状態にある人が、全員うつ病というわけではありません。
ひきこもりには、人間関係への不安、発達上の特性、過去のトラウマ、家庭や職場の問題など、さまざまな背景があります。
しかし、ひきこもりとうつは、深く関係することがあります。
うつ状態が先に起き、ひきこもる場合
学校や職場でのストレスが続くと、心と体のエネルギーが少しずつ低下していきます。
朝起きることが難しくなり、人と話すことが苦痛になり、外出するだけでも強い疲れを感じるようになることがあります。
最初は学校や仕事を数日休むだけだったものが、次第に休む期間が長くなり、家の中だけで過ごすようになる場合があります。
本人としては、学校へ行きたくない、働きたくないというよりも、行こうとしても体が動かない状態かもしれません。
うつ状態では、気持ちだけで自分を奮い立たせることが難しくなります。
「頑張らなければ」と思っても頑張れず、そのことによって自分を責め、さらに気分が落ち込むという悪循環に陥ることがあります。
ひきこもりが長期化し、うつ状態が強くなる場合
最初は、人間関係の悩みや仕事での失敗などがきっかけだったとしても、ひきこもり状態が長く続く中で、うつ状態が強くなることがあります。
社会との接点が少なくなり、昼夜が逆転し、家族以外と話す機会も減っていきます。
そのような生活が続くと、
「自分には価値がない」
「家族に迷惑をかけている」
「周りの人は前に進んでいるのに、自分だけ止まっている」
「もう将来に希望がない」
と考えるようになることがあります。
自信を失い、外へ出ることへの不安がさらに強まり、ひきこもりの状態から抜け出しにくくなってしまいます。
このように、うつがきっかけとなってひきこもることもあれば、ひきこもりの長期化によって、うつ状態が深まることもあります。
ひきこもりとうつが互いに影響し合い、悪循環をつくってしまうことがあるのです。
うつは「気分の落ち込み」だけではありません
うつというと、いつも悲しそうにしている状態を想像するかもしれません。
しかし、うつの症状は、気分の落ち込みだけではありません。
次のような変化が現れることがあります。
- 以前は楽しめていたことを楽しめない
- 朝起きることができない
- 夜になっても眠れない
- 一日中眠ってしまう
- 食欲がなくなる
- 反対に、食べすぎてしまう
- 体が重く、少し動くだけでも疲れる
- 集中できず、物事を決められない
- 自分には価値がないと感じる
- 過去の失敗を繰り返し思い出す
- 動作や受け答えが遅くなる
- イライラや落ち着かなさが強くなる
また、本人が気分の落ち込みを訴えず、頭痛、肩こり、胃腸の不調、動悸、めまい、強い疲労感など、身体の症状として現れることもあります。
そのため、ひきこもっている人が何も話さないからといって、心の不調がないとは限りません。
本人自身も、自分がうつ状態にあることに気づいていない場合があります。
外から見える姿だけで判断しないこと
ひきこもりの状態にある人は、外から見ると、一日中部屋で休んでいるように見えることがあります。
しかし、その内側では、
「このままでよいのだろうか」
「家族に申し訳ない」
「外に出るのが怖い」
「失敗するのが怖い」
「何をしても、もう手遅れなのではないか」
という苦しさを抱えているかもしれません。
大切なのは、ひきこもりという行動だけを見るのではなく、その背景にどのような不安や心の不調があるのかを考えることです。
ひきこもりは、本人が楽をするために選んだ生活とは限りません。
傷ついた心を守るために、人との関わりや社会から距離を取らざるを得なくなっていることもあります。
まずは、ひきこもりを「怠け」や「本人の性格の問題」と決めつけず、その背景にある苦しさに目を向けること。
それが、本人を理解し、回復への道を考えるための大切な第一歩になります。
参考資料
- 厚生労働省「ひきこもり支援に関する情報」
- 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック」
- 国立精神・神経医療研究センター「こころの情報サイト」

